この手とあなたの手で海になる

 状況は大きく変わっていないようだった。あなたからの知らせは、かすかな胸の痛みとざわめく空気を運んでくる。今日はメールにあなたの名前を確認したとこで、充電がなくて電源がおちた。
 そんなだから、また胸が重たくなる。だけど冷静に、きれいに息を吸って吐いてして、夜の蒸し暑い風のなかを急いだ。
 あたしを思いだすこと、うれしく思う自分がいる。こういう2人の位置に、あたしがしてしまったのかもしれない。永遠にさよならしたくないと望んでいたから。 困るのは、つらいって言うのに、どうして欲しいとも何も言わないから。ありきたりの言葉しか向けられなくなる。


 なにが嬉しくて、なにがうっとおしいのか、顔を見なくちゃわからなくなるよ。夜が深くなるにつれて、「遠い」は更にとおくへ往く。
 器用にこの手からあなたの元まで飛ばせない。手の平からそこまでたどり着く間に、夜の海にこぼれてしまう。


 でもうそは言わないよ。何かできることがあるのなら、いくらでもって。あたしが好きな人をみつけても、あなたが幸せでなきゃ。
 あたしじゃできないことが、やっぱりあるから、あなたを暖めてくれるもの包んでくれるもの、子供みたいに眠れる場所を…どうか。