ゆずとプレゼントと恋の唄。

 さかのぼると8年も前のことらしい。あの時1年2組の教室で出逢った私たちは15歳。西高のあの春の胸をくすぐった風が、蘇り吹いてった。
 待ち合わせの1時間前にHMVで遇っちゃうし、時間潰しのコーヒー代が777円だったし、そんな偶然も起きちゃうはず。笑顔とおなかの底から可笑しさが込み上げてきて。とっておきの夜が加速する音をきいた。
 今夜集まったのは女の子3人と男の子2人、高1のクラスメイト。たまに同窓会なんかもしていて、ぎゅっと凝縮した仲良し5人。女の子の一人がこの春彼氏と東京へいく。高校を卒業してすぐバイト先で知り合った彼と長いこと付き合って。彼は東京で小学校の先生になる。結婚の約束もして、彼女は彼と一緒に暮らすことを決めた。てみじかに言うと彼女の送別会。
 乾杯するころには15歳にもどってしまっていた。御飯もお酒もなんだかやけにおいしくて、みんなウキウキはしゃぐ気持が伝染しているのが分かった。
 それぞれプレゼントを持ち寄って彼女に渡した。ルームスプレー、押尾コータローのCD、私達女の子からは無印のスリッパ。素っ気なく見えて、色違いのボーダーのスリッパが、大きいのと小さいのと並んでたらかわいいと思ったんだ。
 ちょっぴり淋しい胸のうちが、今夜を特別楽しいものにしていたんだ。カラオケでえらぶ曲も、シャッターを切るのも、「今だけ」「あと数時間だけ」「ここにしかない」って胸に刻みながら。
 恋の話も恋の痛みももう時効。今となっては自分がした恥ずかしいことも無邪気ささえも、一点の曇りもない桃色の空のよう。言葉にならなくてただ涙があふれた事も、もう笑って話せるよ。もちろんずっと秘めたままでしまっておきたい事は、そのまんまで飲み込もう。
 とても別れが惜しかった、かえりたくないと口をついて出そうだった。だってバイバイして遠ざかっても、三月の夜風がまた冷たく吹いても、8年の月日を23歳に戻すのにはまだもう少し時間が要るから。
 そこから女3人は街中にある一人の家で明け方まですごした、眠気に襲われて布団に倒れこんだ子の横であたしと東京へいく彼女は話始める。とにかく恋愛しなくちゃだめだよといつになく力説され、背中をぼんぼん押された。お互いこれまで知らなかった話、心の奥に持ってたことも、どちらともなく零れて流れて笑い合った。あたしは暖まったらすぐにタクシーで帰ろうと思っていたのに、ずいぶんと話しこんでいた。
 目が開かないって布団に倒れたままの彼女は昼にはデートがあって、ようやく化粧落としにバスルームへむかう。二人のすっぴんを見届けて、あたしも立ち上がったのは午前3時を回ったころ。二人が表の通りまで送ってくれた。あたしを乗せたタクシーは軽々とUターンして、まだ暗い街を駆け抜けた。
 すんごく気分の良い、そんでもって肝臓の調子もすこぶるいいあたしは運転手さんとの会話も弾む。真夜中は思ったより暖かくて、この道が春一色に変わるのも間近なんだろうな。そう頭でぼんやり思うと、薄桃色の空がまた目の前を染めた。お酒のおかげか現実と見紛うぐらいに鮮やかで、大げさにも泣きたくなった。だってあったかいんだもん。眠る直前まで桃色に包まれてあたしは…。